第6部は、本書の原点である交流会と1on1、そして商談の話です。私の商売のいちばんの集客先は、広告でもSNSでもなく、「一度会った人」でした。ただ、白状すると、交流会に通い始めたころの私は、行けば行くほど疲れて、成果はゼロという時期を長く過ごしています。原因は、行き方でも話し方でもなく、交流会という場の捉え方そのものにありました。この章では、当日のテクニックの手前にある「参加戦略」、つまり、どの場に、何のために、どう関わるかの設計をお話しします。ここが定まると、交流会は消耗の場から、仕組みの入口に変わります。
23-1 交流会は「営業の場」ではなく「入口の場」
その場で売ろうとするから空回りする
かつての私は、交流会を「営業の場」だと思っていました。参加費を払い、時間を使うのだから、仕事につなげなければ元が取れない。そう思って、自己紹介では自分のサービスを一生懸命説明し、脈のありそうな人には、その場で提案めいた話までしていました。
結果は、惨憺たるものでした。話せば話すほど、相手の目が逃げていく。そして帰り道の、あの疲労感。いま思えば当然です。第3章の二軸で言えば、出会ったばかりの相手は、私への信頼もゼロに近く、自分の課題への認知も整理されていない。その状態で解決策を差し出されても、受け取りようがないのです。交流会で売り込みが空回りするのは、話術の問題ではなく、順番の問題でした。まだ何も育っていない場所で、収穫だけしようとしていたのです。
入口と割り切ると行動が変わる
転機は、捉え方を一つ変えたことでした。交流会は営業の場ではなく、入口の場である。ここでは何も売らない。売るための場は、あとで別に用意する。そう割り切ったのです。
すると、行動が全部変わりました。自己紹介は、売り込みではなく「何の人か覚えてもらう」ための30秒になる(第24章)。会話は、聞く時間が増える。相手の商売の話を面白がって聞けるようになる。そして、いちばん大きな変化は、会のあとです。入口なのだから、本番はフォローにある。24時間以内のお礼、お便りへのご案内、1on1の打診(第25章)。交流会の成果は、当日ではなく、その後の一週間で決まるものになりました。第3章のジャーニーで言えば、交流会は「出会い」のステージを豊かにする場であって、「相談・成約」のステージを短絡させる場ではないのです。
成果の再定義:名刺の数から関係の数へ
捉え方が変わると、成果の測り方も変わります。かつての私の成果指標は、いただいた名刺の枚数でした。たくさん配り、たくさん集めた日は、仕事をした気になれた。その結果が、序章に書いた、フォローされないまま積み上がった1000枚超の名刺です。
いまの私の指標は、一つだけです。「関係が始まった人が、何人いたか」。具体的には、会のあとにお礼を交わし、次の接点(1on1、お便り、再会の約束)につながった人の数です。この基準だと、名刺30枚の日より、深く話せた3人の日のほうが、良い日になります。枚数はゼロでも、一人と次の約束ができたなら、その会は成功です。面の数字とリストの数の話(第3章・第9章)と、まったく同じ構図が、リアルの出会いにもあるのです。数えるべきは、接触の数ではなく、始まった関係の数。この再定義が、この部の全体を貫く物差しになります。
23-2 交流会の種類と選び方:単発型・継続型・紹介組織型
三類型の特徴とコスト
ひとくちに交流会と言っても、性格の違う場が混ざっています。私は大きく三つに分けて考えています。
一つ目は、単発型。誰でも参加できる名刺交換会やイベントです。新しい出会いの数は多いけれど、同じ人に二度会える保証はない。二つ目は、継続型。商工会議所の部会、朝活のコミュニティ、テーマ型の勉強会など、同じ顔ぶれと繰り返し会う場です。出会いの数は少ないけれど、関係が回を重ねて深まる。三つ目は、紹介組織型。BNIのように、互いに紹介を出し合うことを目的に設計された組織です。コミットメント(出席や貢献の約束)が重い代わりに、紹介という最も温かい出会いが仕組みとして回る。右に行くほど、時間とお金のコストは上がり、関係の深さも上がります。どれが正解という話ではなく、性格の違う道具なのです。
自分のビジネスとの相性判定
選び方の軸は、あなたの商売が「何回会えば依頼される商売か」です。
その場で必要性が分かる商売、たとえば名刺やチラシの制作なら、単発型の出会いからでも依頼は生まれます。一方、コンサルティングや士業のように、信頼が育ってから初めて相談される商売は、一度きりの出会いでは、まず決まりません。何度も顔を合わせ、人柄と実力が伝わって、ようやく「実は」と切り出される。この型の商売は、継続型・紹介組織型に軸足を置くべきです。私自身、仕組みづくりの相談という商売の性質上、継続型の場に腰を据えるようになってから、流れが変わりました。単発型は、継続型で育てる関係の「入荷」の場と位置づける。つまり三類型は、択一ではなく役割分担で使うのが実際的です。
撤退基準も先に決める
もう一つ、先に決めておきたいのが、やめる基準です。交流会には、不思議な引力があります。行けば誰かに会えて、何かをした気になれる。だから、成果がなくても、なんとなく通い続けてしまう。
私は、新しい場に参加するとき、「三回出て、関係が始まった人がゼロなら、次を最後にする」と決めています。回数は好みでいいのですが、大事なのは、入る前に決めておくことです。入ってからだと、顔見知りが増え、断りにくさが判断を曇らせます。時間もお金も有限で、とくにひとり経営者の夜と朝の時間は、商売の生命線です。合わない場を丁寧に卒業することは、失礼ではありません。むしろ、合う場に深くコミットするための、必要な整理です。
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参加戦略が決まったら、次は当日の技術です。売り込まずに、覚えてもらう。その中心にある30秒の自己紹介から組み立てます。
