白状します。交流会で初めて会った人に、名刺を渡した直後から自分のサービスの説明を始めて、相手の目が少しずつ遠くなっていくのを見たことが、私には何度もあります。悪気はありませんでした。むしろ「せっかく会えたのだから、ちゃんと伝えなければ」と真剣だったのです。あの失敗を長く考え続けて、私は一つの結論にたどり着きました。相手の中には二つの別々のものがある。私という人への「信頼」と、自分の課題への「認知」。あのとき私は、そのどちらもまだ育っていない人に、解決策だけを語っていたのです。この章では、この二つの軸で相手を見る目と、軸に合わせた接し方を、私の失敗を教材にしながら一緒に身につけていきます。
3-1 パーセプション(課題への認知)と信頼 — 二つの軸で相手を見る
「あなたへの信頼」と「課題への認知」は、別の軸
まず、この本の土台になる区別からお話しさせてください。お客様があなたに仕事を頼むまでのあいだ、相手の中では二つの別々のものが動いています。
一つは、あなたという人への「信頼」です。この人は約束を守る、この人の話は確かだ、という、相手=人に向けられた感覚。もう一つは、「パーセプション」。あなたの商品が解決する課題を、相手が自分の課題としてどこまで認識しているか、という認知の度合いです。私は長いあいだ、この二つを混ぜて、一本の階段のように考えていました。仲良くなれば、いつか買ってくれるはずだ、と。でも実際には、違いました。とても信頼し合っている交流会の仲間が、私のサービスを一度も必要としない。逆に、初対面に近い人から「まさにそれを探していたんです」と即決で頼まれる。信頼と課題への認知は、別々に動いているのです。仲の良さは、課題の自覚を生みません。課題の自覚は、人への信頼を生みません。この分離に気づいてから、私の営業の景色は大きく変わりました。
パーセプションの段階:課題に気づいていない人に、解決策は届かない
パーセプションの軸を、もう少し細かく見てみます。相手の中で「課題」は、おおまかに次のように育っていきます。課題に気づいていない。何かうまくいっていない気がする、と予兆を感じている。課題がはっきり見えた。自分ごととして解決策を探し始めた。そして、決めようとしている。
冒頭の私の失敗を、この軸で見直すと、原因がよくわかります。名刺交換をしたばかりの相手の多くは、「フォローが続かない」ことを課題だとすら思っていません。名刺は増えるものだし、連絡しないのはお互い様だ、くらいの感覚です。その人に、解決策の説明をいくら丁寧にしても、届きません。課題に気づいていない人にとって、解決策は「関係のない話」だからです。パーセプションの段階に合わせて渡すものを変える。気づいていない人には、気づくきっかけ(あるある話、診断、事例)を。探し始めた人には、選ぶ材料(比較、実績、提案)を。この順番は、あとの章の配信(第11章)でもフロント(第7章)でも、ずっと使う考え方です。なお、実務ではこの軸を七つの段階に分けて記録し、運用します。その方法は第18章でご紹介します。
二つの軸を掛け合わせて、次の一手を決める
信頼とパーセプション、二つの軸が別々に動くなら、相手への接し方は掛け合わせで決まることになります。ざっくり四つの象限で考えてみてください。
信頼も課題認知もまだ低い相手。ここでは売り込まず、覚えてもらい、関係を始めることだけ。お礼のメッセージ、ゆるい接点の維持です。信頼は高いが、課題認知が低い相手。交流会の仲間の多くはここです。ここで売り込むと、せっかくの関係を傷めます。渡すのは解決策ではなく、課題に気づくきっかけ。「こういうこと、ありませんか」というあるある話や診断を、そっと置いておく。課題認知は高いが、信頼がまだ低い相手。相手は解決策を探しています。急ぐべきは信頼の裏付け、つまり実績・事例・共通の知人からの紹介です。そして、信頼も課題認知も高い相手。ここでは、はっきり提案してください。ここで遠慮するのは丁寧ではなく、探している人を待たせるだけです。
一つ例を挙げます。交流会で名刺交換をした翌日のお礼のメッセージ。あれは、二つの軸を同時に少しずつ進める一手です。約束どおり翌日に届くことが信頼を一段積み、「昨日お話しした〇〇の件、参考になりそうな記事がありましたので」の一言が、課題への気づきの種になる。売り込みはどこにもありません。それでいて、二つの軸は確実に動いています。
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土台が固まったので、ここから第2部「認知」に入ります。まだあなたを「知らない」人に、どうやって見つけてもらうか。露出の量を追って空振りした私の経験から、「あの人」と思い出してもらえる文脈のつくり方を考えます。
