CRMという言葉に、正直、良い印象を持っていない方も多いと思います。顧客管理。管理という言葉には、どこか、人を番号で扱うような冷たさがあります。私も長いあいだ、そう感じていました。人との関係を記録するなんて、打算的ではないか、と。その私がいまは、CRMを自分の商売の心臓部と呼び、道具まで自作しています。何が変わったのか。記録は、大切にしたい人を、忘れないための装置だと気づいたからです。ここから始まる第5部は、点の世界、一人ひとりとの関係の話です。まず、なぜひとりビジネスにこそCRMが必要なのかから、お話しさせてください。
16-1 記憶に頼る営業の限界:忘れた瞬間、関係は止まる
「あの人に連絡しなきゃ」が消えていく仕組み
交流会の帰り道、「あの人に連絡しなきゃ」と思う。三日後、名刺を見て思い出す。一週間後には、名刺が別の書類の下に隠れ、一か月後には、思い出すことすらなくなる。この本で何度も描いてきた場面ですが、ここで一度、冷静に観察してみたいのです。「連絡しなきゃ」は、なぜ消えるのか。
意志が弱いからではありません。人の記憶が、そういう仕組みだからです。人は、新しい情報が入るたびに、古い「やろうと思っていたこと」を上書きしていきます。ひとり経営者の毎日は、納品、経理、発信、次の交流会と、新しい情報の連続です。上書きされない記憶はありません。つまり、記憶に頼る限り、フォローは構造的に消えるのです。ここでも結論は同じです。あなたのせいではなく、仕組みの問題です。
忘れることは悪ではない、前提にする
だから、私の提案はこうです。忘れないように頑張るのを、やめましょう。忘れることを、前提にしましょう。
覚えておくのは、脳の仕事から外す。その代わり、外の仕組みに覚えさせる。誰と会ったか、何を話したか、次にいつ連絡するか。全部、書いておく。そして、思い出させてもらう。これは、手帳の時代から商売上手な人がやってきたことで、特別新しい話ではありません。ただ、ひとり経営者は「自分ひとりだから、頭で覚えていられる」と思いがちです。私もそうでした。1000枚の名刺は、その思い込みの結果です。関係の数が50を超えたあたりから、頭は必ず限界を迎えます。むしろ、大切にしたい人が増えるほど、記憶に頼ってはいけないのです。
記憶の外部化が丁寧さを可能にする
「記録に頼るなんて、気持ちがこもっていない」。かつての私の抵抗感は、これでした。同じ引っかかりを感じる方に、私の考えが変わったきっかけをお話しします。
あるとき気づいたのです。私が「気持ちがこもっている」と感じてきた人たち、久しぶりに会っても家族の話を覚えていてくれる取引先、好みを覚えてくれている店の人。あの人たちは、記憶力が特別だったのではなく、記録していたのだ、と。気持ちがあるから、忘れたくない。忘れたくないから、書いておく。記録は、気持ちの代わりではなく、気持ちの実行手段でした。逆に、記録しない私は、気持ちはあっても、忘れて、結果として何もしない人だったのです。丁寧さとは、覚えていることではなく、覚えているかのように振る舞い続けられること。その支えが、記録です。
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第17章 関係性を記録する — 出会いの経緯・接触日・望む関係性
記録する意味が腑に落ちたら、次は「何を」記録するかです。書きすぎれば続かず、書かなすぎれば役に立たない。ちょうどいい記録の設計を、私の項目をそのまま開いてお見せします。
