ここから第4部、リストマーケティングです。実は、この部を書くことに、私は少し緊張しています。リストの仕組みは、私が25年やってきた本業のど真ん中であると同時に、数え切れない失敗を間近で見てきた場所でもあるからです。第3章でお話ししたとおり、私は数だけのリストの無力さを、いくつものクライアントのリストで思い知りました。それでも、いえ、だからこそ言えます。正しく付き合えば、リストはひとり経営者にとって最強の資産です。この章では、テクニックの手前にある原理原則を、失敗の現場に居合わせてきた者の実感を添えてお話しします。
9-1 なぜリストが最強の資産なのか:歴史と本質
「火事になったら顧客台帳を持って逃げろ」
江戸の商人には、こんな言い伝えがあったそうです。火事になったら、金庫より先に顧客台帳を井戸に投げ込め。台帳は特殊な加工がしてあり、水に濡れても文字が消えなかったといいます。店が焼けても、商品が焼けても、「誰がお客様か」さえ残っていれば、商売は立て直せる。
私はこの話が好きで、よく引き合いに出します。リストマーケティングというと新しい手法に聞こえますが、本質は江戸から変わっていません。あなたの商売でいちばん燃えてはいけないものは、事務所でも在庫でもWebサイトでもなく、「また連絡できるお客様の一覧」です。序章の名刺の話を覚えているでしょうか。1000枚の名刺を放置していた私は、言ってみれば、台帳を持たずに商売をしていたのです。
そして、この台帳には二つの顔があります。「また届けられる連絡先の一覧」としての顔と、「一人ひとりとの関係の記録」としての顔です。前者がこの第4部で扱うリスト、後者が第5部で扱うCRMです。江戸の商人の台帳は、この二つが一冊になっていました。誰に何を売ったか、どんな家族がいるか、いつ訪ねたか。本書でも、この二つは最後に一つにつながっていきます。まずは前者、届けられる一覧のほうから育てていきましょう。
SNSフォロワーとリストの決定的な違い
「フォロワーが何百人もいるから、リストは要らないのでは」。そう聞かれることがあります。気持ちは分かりますが、フォロワーとリストには、決定的な違いが一つあります。こちらから届けられるかどうか、です。
SNSの投稿は、フォロワー全員には届きません。届くかどうかを決めるのは、あなたではなくアルゴリズムです。第5章でお話ししたとおり、SNSは出会いと接点維持の場としては優秀ですが、「この人に、この日に、これを届けたい」はできません。一方、メールやLINEのリストは、あなたが届けたいときに、あなたの言葉で届けられます。面の活動の中で、唯一「自分でハンドルを握れる」チャネル。それがリストです。
プラットフォームに依存しない唯一の資産
もう一つ、25年この業界にいた人間として、はっきりお伝えしておきたいことがあります。プラットフォームは、変わります。必ず変わります。
私はこれまで、隆盛を誇ったサービスがルールを変え、廃れ、消えていくのを、いくつも見てきました。そのたびに、そこだけに顧客接点を置いていた人たちは、積み上げたつながりを失いました。メールアドレスのリストが特別なのは、特定の会社のサービスではなく、開かれた仕組みの上にあることです。配信ツールは乗り換えられます。リストは持ち運べます。SNSのアカウントは借り物の土地ですが、リストは自分の土地です。借り物の土地に立派な家を建てる前に、自分の土地を持つ。順番として、そう考えていただきたいのです。
次の章へ
第10章 名刺と出会いをリストに変える — リスト取得の設計
原理原則が入ったところで、いよいよ実践です。あなたの机に積まれた名刺と、これからの出会いを、許諾を得たリストに変えていく設計。私が1000枚の名刺を前に考えたことから始めます。
