スマートフォンの普及とともに「ググる」が日常語になったように、私たちの情報収集は検索サイトを中心に進化してきました。ところが今、ChatGPTのような生成AIの登場により、新しい検索行動が急速に広まっています。日常の疑問から専門的な悩みまで、検索窓にキーワードを打ち込むのではなく、「AIに聞く」というスタイルが定着しつつあります。自然な対話形式で答えを返してくれるAIは、「困ったら相談する相手」としてユーザーに寄り添い、これまで検索エンジンが担っていた役割の一部を奪いつつあるのです。
消える「悩みキーワード」、増える「ブランド検索」
こうした行動の変化は、検索エンジンに入力されるキーワードの傾向にも表れています。ユーザーが悩みや課題をAIに相談するようになったことで、検索窓には「〇〇する方法」や「△△ おすすめ」といった“ニーズ系キーワード”が登場しにくくなり、その代わりに「〇〇株式会社」「△△公式」など、企業名や商品名を含む“ブランド指名検索”が増えているのです。実際にAhrefsの調査では、Google検索の約半数がブランド名を含んだ検索であることが報告されています。これは、ユーザーがすでに購入や利用の意思を持って検索サイトを使っていることを意味し、検索の役割が変わりつつあることを示しています。
SEOやリスティング広告は過渡期にあるのか?
かつて私がSEO支援を行っていた頃は、こうしたニーズ系キーワードを丹念に調査し、それに応じたコンテンツを作り込むことで検索上位を狙うのが基本戦略でした。ページ構造や導線、タイトルや見出し、内部リンクまで、すべては検索での露出を高めるためのものでした。しかし今、たとえ上位表示を達成しても、そのキーワード自体が検索されていなければ意味がありません。さらに、高額な広告費を投じてまでリスティング広告を出しても、ニーズ系の検索行動自体が減っているのであれば、費用対効果は著しく低下するでしょう。SEOもリスティングも、まさに今、役割の見直しを迫られていると言えます。
思い出してもらうことの重要性――ブランド戦略の本質
こうした時代には、「検索される」よりも「思い出してもらう」ことの方が圧倒的に価値を持つようになります。ユーザーが「〇〇ならあの会社」「△△を買うならあのブランド」と頭に浮かべてくれることが、検索される入口になるのです。そのためには、これまで以上にブランド力が重要になります。SNSも、単なる情報拡散の場から、「〇〇=XX」という刷り込みを行うための重要なブランディングチャネルへと変化していくでしょう。広告やコンテンツも、商品理解を促すだけでなく、ブランドを印象づけ、指名検索へつなげるための仕掛けが求められます。
信頼関係が最大の資産――リストマーケティングの再評価
AI技術の進化は止まることを知らず、マーケティングの手法もビジネスモデルも短期勝負の世界になってきています。そんな不安定な時代だからこそ、長期的な信頼関係を築くリストマーケティングの価値が再評価されています。一度つながった見込み客に対して、メールマガジンやLINE公式アカウントなどを通じて丁寧に情報を届け、自社の考えや価値を伝え続ける――。その地道なコミュニケーションが、ブランドとしての存在感を強め、変化の時代を生き抜く最大の武器となるのです。検索行動が変化する今こそ、「検索される前に選ばれる存在」になることが、マーケティングの本質ではないでしょうか。